「鉄平さんの間違いはね、自分の娘が、
男にとってどれぐらいまぶしいか分かってなかった所だよ」
ほの暗いフロアに白く浮かぶうなじを見下ろしながら、栄治はゆっくりと言った。
「親子そろって、そーゆー所は鈍いよね。
あんたも全然分かってなかった。
……俺が、その脚の傷に一度でもキスできたら、
その場で蹴り殺されても構わないってずっと思ってたことなんて」
玲子は、栄治の潮騒に似た声音が、首筋の産毛をゆっくりと逆立てて行く
のを感じていた。
それは、サーファー時代にいつもその足をふと止めさせた、
時化の予感とよく似たざわつきだった。