サーフィンで怖いのは、リップカレントと呼ばれる離岸流に流されることと、接触事故だ。
特にジェットスキーと接触するのは大型バイクにはねられるようなものなので、
マナーの悪いジェットスキーヤーは海では人食い鮫並みに嫌われている。
玲子は、無意識に、微かに引きずる左足をなでていた。
玲子が誠とのサーフィン中にジェットスキーにはねられたのは、
調理師の専門学校に通っていた19歳の夏のことだ。
あのときの血が凍るような恐怖は、あれから10年経った今でも、
まだ細胞にこびりついていて離れない。
幸い今日の人食い鮫は、3人のサーファーをボードから落下させると悠々と去って行った。
鉄平は、Tシャツのまま海に入り、サーファーたちを気遣っている。
怪我人がいないことを確かめた玲子は、その場に座り込むと、
冷や汗でびっしょり濡れた自分の身体を抱きしめた。