「ごっこ遊び?」



「そう、家族ごっこ。

お互いに責任がないから、楽だった」



「……責任、か。うん、そうだったのかも」



 栄治は、干したグラスを床に置くと、寂しげにうなずく。



「……でも俺、ここで家族ごっこしてた頃が一番楽しかったよ。

本当の家族になるのって、幸せも多いけど、

しんどいこともかなり多い気がする」



 そして、愚痴になるけどさ、とつぶやいてからそう続けた。



 その日焼けがあせて火傷と切り傷の目立つ指先は、

義父や先輩たちと共に、伊太利亭の厨房に立ち続ける毎日の厳しさを伝えている。