玲子は、しばらくの間、怯えた小動物のように呼吸を殺してその場でじっとしていた。  



 体全体が妙に頼りなくて、自分が空っぽになったように感じる。



「……泣くな。誠が戻らないことは、とっくの昔に分かってたはずでしょ」



 やがて玲子は、鏡の中の自分を上目遣いに睨んでそうつぶやくと、

手にした携帯をポケットに押し込め、

その切れ長のうるんだ眼の位置に握り拳を打ち込んだ。



 とたんに、右手に鈍い痛みが走る。



 だけど……無意識に力加減をしていたのか、

一瞬後、玲子は傷ひとつない拳を抱えて左右にゆれる鏡を見つめていた。



 鏡の中のリーシュコードは、めまいを誘うリズムでふらふらとゆらぎ続けている。



 地球が急に逆周りを始めた気がして、玲子は壁に手をついて自分自身を支えた。