「あそこには海がないんだ。
だけど……お前といっしょなら、終わらない夏の中で生きていける気がする。
ほかの女じゃ駄目だ。
頼む、玲子。どうしてもお前じゃなきゃ」
玲子の目をまっすぐにのぞき込み、
そうくり返す誠は、2人の長い歴史の中で初めて兄貴の余裕を捨てていた。
玲子は、信じられない思いで、切なさを訴え続ける1人の男を見つめる。
そして、返事の代わりに、誠の左手の薬指に歯を立てた。
続いて、誠も。
一筋の涙と共に。
そして再び目を閉じ、震える潮騒に身を任せた玲子は、
誠と共に何も考えることができない世界へともう一度漕ぎ出して行った。