「咲。」
博貴は咲の頭をポンポンとすると「出逢った頃のこと覚えてるか?」と言った。
「まだ俺は部屋に籠って、家族に気持ちを閉ざしてた。そんな時に咲は俺にプレゼントを寄越した。」
「え?そんなこと…したっけ?」
博貴は雪乃の写真の横にある小引き出しから小さな紙を取り出した。
「覚えてないか。あの時、桜の花びらで栞を作ったと言って渡されたんだ…。」
「え~、何これ。」
見ると花びらはボンドの部分が変色して破れているし、台紙の紙はヨレヨレだ。
「貰った時はここまで酷くなかったけど、数日で色は変わるし、紙は薄くて栞としては使えなかったから、ずっとしまってあったんだ。」
「そうだったんだ。ごめんなさい。今見るとよくこんなの渡したよね。」
「いや、謝らなくていい。要は気持ちだろ?嬉しかったよ。あんなことして貰ったのは初めてだった。若い女の子にね。それを見てあまりの不器用さに思わず笑ったけど。」
「え…えへへ。」
咲は複雑な顔をした。