お母さんが好きだった銀杏並木。
ここに来ればお母さんと話ができるような気がして…ううん。本当は逢いたくて、声が聴きたくて、抱き締めて欲しくて…。
樹の幹に額を付けて俯いた。
すると突然後ろからフワリと暖かいモノに包まれた。
見覚えのあるコート。
これを着ている人は……
「やっぱり…。ほら貸してみ?」
背後から、擦り合わせていた手を包むように両手で握られた。
まるで身体ごと全部包むように。
背中から伝わる体温が優しい。
「どうしてわかったの?ここにいること。」
「博貴さん、心配してたぞ。…咲のことよく理解してくれてるじゃないか。たぶんここじゃないかって、頼まれた。」
「…あのね。」
「ん?」
「あの、ごめんなさい。…今まで辛かったでしょ?一文字咲だなんて言って。」
「…え?」
「私…天宮咲だったんだよね。」
「思い出したのか?」
「うん。長い間待たせてごめんね。」