「どうなんだろ?
でも家政婦を辞めてからも近くに住む場所を選んだということは、結局遠くには行けなかった。行かなかったんだよ。
近くにいたかった。
……どんなに一緒に暮らしたかったかを考えると…辛い選択だよ。
陰に隠れながらそっと姿を目で追ってたのかも。
咲だって一度帰ってきたろ?
あの時は水泳があったから耐えられたんだろ?
咲の母ちゃんは咲がいたから耐えられたんじゃない?
あ、そうか。
その手紙…出すつもりなんかなかったんだと思う。」
「どうして?せっかく書いたのに。」
「だって咲がいること自体伝えてなかったろ?出すつもりならもっと早くに言ってる筈だ。」
「じゃあ、これは最初から出すつもりのない手紙…。」
「うん。」
お母さんはきっと言いたかったんだ。私の存在を伝えたかった。
でもできなくて、こんな形で残した。
「ねえ。お兄さんに…この手紙渡したい。早く見つかればいいのに。
私のことまだ耳に入らないのかな。水泳のことなら興味あるだろうし、知ってくれてると思うんだけど。」