「これ、とっても美味しい!果物そのものみたい。」
「……雪乃が…」
「……」
「好きだったんだ。」
え?
「そのジュース。」
「あ…そうだったんですか…。」
びっくりした。
お母さんのことが『好き』だったのかと思った。
「昔、旅先で飲んだ時、随分気に入ってね。時々注文して今でも…いや、何でもない。」
窓の外を見ながら、でも遠くを見つめて何かに思いを馳せてる様子に、はっと気づいた。
「銀杏並木…」
「……」
「銀杏並木に行ったことないですか!?」
「駅前の?あそこは誰でも通るだろう。」
「そうなんだけど…でもあそこで銀杏を見上げて、今みたいな切ない表情で…あれはお兄さんだったんでしょう?」
「…さあな。銀杏を見上げて、美しいと感じる奴なんていっぱいいるだろ。」