「ありがとう、蓮南…ッ」


泣きながら呟いた母の言葉に一瞬目を見開かせてから、母に優しく微笑みかける。


それからは話したかった事を話せば母はずっと聞いてくれていた。


「…どのくらい、ここにいるかな?」


もう長い時間ここにいるような気がして、ぽつりと言えば母は何かを決意したように口を開く。


「……蓮南、貴女は戻れるわ」

「……ッッ……」


唐突に言われた言葉にひゅっ、と息を飲み目を丸くさせる。


「…元の世界に…皆のところに…?」


あまりの言葉に閊えながら言えば母はしっかりと頷く。


「でも、私はもう…」


―…死んでるんじゃないの?


そう続けて言えば、ふるふると首を横にする母。


「…あなたが行こうとしてしまった暗闇に浮かび上がった道…あそこに在るのはただの悲しい魂たちだけ。…あなたを仲間にいれようとしたの」


「……ッッ……」


母の言葉に何とも言えない恐怖が体を走る。


あそこに行っていれば。
声の言う通りにしていれば。


―…戻れなくなってた…―


「…まだ貴女は死んでないのよ?ちゃんと生きている…だって、その証拠に声が聞こえるでしょ?」


優しく手を握る母の言葉に耳を澄ませば微かに聞こえてくる声。


「…誰の声?」

「ふふっ…貴女の大切な人よ…」


その言葉に目蓋を閉じ神経を研ぎ澄ます。


―…蓮南…―

「……ッッ…波留…?」


目蓋をパッ、と見開けば母は昔と変わらない安心したような笑みを向ける。


「……お母さ、ん?」


どうして?…体が消えていくよ?