「…お前らの総長はこの様だ、今すぐ失せろ…ッ」
恐ろしい、そんな言葉では表せない感情。
世界一の王座にたつ者が発するものは紛れも無い――…威圧。
その言葉が響き渡れば皆、我に返ったように早々と逃げるように立ち去るなか信条だけが立ち尽くす。
「……克を連れてお前も消えろ」
低い声で威嚇するように言えば肩を震わせる信条。
「……ははッ…あはははは!!」
不意に響いた笑い声に、その場にいた誰もが訝し気な視線を送る。
「…克が負ける訳がない…ッ!!」
「今、お前の目に映るのが事実だ」
波留が苛立ちを隠さずに言えば暫し黙ったまま克を見つめる信条。
「……克は負けてない!!俺のなかで克は最強だ!!負け…負ける訳がない!!」
喚くように嗚咽交じりに言えば、地面に膝をつけ気を失ったままの克に言葉をかける。
その様子をただ傍観者のように眺めながら頭を過ぎる考え。
――…きっと、克も信条も私が気付く前からすでに壊れていた。
「……狂ってる…」
誰にも聞こえないような小さな声で呟けば視線を移し皆へと向ける。
「……もう、帰ろう」
全て終わった。
そう思い力無く微笑み言えば波留が駆け寄る。
ふわり、と煙草の香りが鼻を掠めたと思えば視界を覆われ波留に抱きしめられている事に気付く。
「…泣きたいなら、泣けばいい」
「俺がいるから」そう言われ張り詰めていた糸が切れるかのように波留の胸に顔を埋め涙を流す。
「…ふっ…ぐす…終わったの…ッ…全部終わったのッ…お兄ちゃんも呪縛から逃れたの!!」
ただ静かに波留はいつものように聞いていてくれる事に更なる安堵を覚え溜まった感情を吐き出す。
頭を撫でる優しい手。
安心する体温。
すぐに私の気持ちに気づいてくれる優しさ。
泣きながら頭を過ぎるものに一つの答が浮かぶ。
「…私…ッ」
――…波留が好きなんだ
今まで感じた全ての感情が今になり納得すれば絡まった糸が解けるように、心の中の蟠りが消えてゆく。
「…ん?何か言った?」
優しく聞く波留に思わず笑みを零しながら口を開いた瞬間。