「……好きな人って、殿内さん?」


「…ッッ!!…バレてたのね…」


少し驚いたように目を見開くがすぐに落ち着いて呟く裕香。


「だからって…何で波留に…」


何故、自分がこんなに波留の事で必死になってるのかは分からない…けど、苛立ちと胸の黒い感情は消えない。


「…私が惇を好きなのは報われないのよ…だから波留を利用したの、もしかしたら惇への恋心なんて忘れさせてくれるんじゃないかって…」


その言葉に抑えていた感情が爆発するように口を開く。


「何もしてないくせに…逃げてばっかなのに偉そうな事言って周りを巻き込んで…結局その程度の気持ちなんじゃない…?」


「……ッッ…私は本気で惇が好きなのよ!!」


叫ぶように話す裕香の言葉に無表情のまま席を立ちバルコニーへ出れば煙草に火をつける。


「……でも、蓮南さんの言う事は間違ってないと思う。…私はいつも逃げてばっかりだった…」


震える声で話す裕香の言葉に耳だけ傾けふっ、と煙を吐き出す。


「……だからッッ、逃げないで…惇と向き合ってみる…ッ」


グスッと鼻を啜る音に裕香の言葉が頭に過ぎる。


不思議と今まで胸に閊えていた黒い感情がスッと消え去る感覚に自然に口角を上げ静かに振り返る。


「…頑張ってね」

「……ッッ…ありが、と…ッ」


嗚咽交じりに答える裕香に微笑みふう…と息をはく。


「……なんか蓮南さんって想像してた性格とは違ったわ」


「…裕香もね」


今までとは違う和んだ空気で話していればトントンッと控えめなノックの音が響く。


「今日は護衛よろしくね、パーティーなんだけど……色々と周りがいるから、ね」


「…了解しました、では支度が終わるまで別室で待機していますので」


任務中の口調に戻り話せば、調度着た裕香の侍女達と入れ違いで部屋を出る。


「お話はお済みになりましたか?」

「…今はパーティーの支度をしています」


廊下にいた殿内と話せば別室へと案内される。