「あの…私、上野夢架。君は?」
その問いかけに彼は、本から目を離さずに口だけを動かして言った。
「高橋進夢」
「高橋くんかぁ。よろしくね」
私は指をチョキにして、それをうねうね動かしてみせた。
これは私の挨拶代わりになる仕草だ。
でも彼は、私に目を向けてはくれなかった。
私は、あはは~と苦笑いをして、両手をおろした。
それにしても、さっきから何をそこまで真剣に読んでいるのかすごく気になる。
「ねえ、何読んでるの?」
って、取りあえず聞いてみた。
そう言って私が覗き込もうとすると、高橋くんは一瞬にして本を閉じた。
「いや…あの」
彼は困ったような表情で言った。
「あ~、なんかまずいこと聞いちゃった…?だったらごめん。謝る。」
私は軽く頭を下げた。
何をそこまで隠しているのか不思議だった。
よっぽど見られてはいけない内容なんだろう。
でも私の性格上、それを放っておくなんてありえない。
いつか絶対に聞き出してみせる。
しつこいって思われない程度にね。
疑問に思ったことは答えが出るまで決してあきらめないのが私。
勉強だって、理解するまで先生への質問攻めがひどかった。
そして、疑問に思ったことは解決するまで決して忘れない。
よく言えば粘り強い、悪く言えばただ自分勝手なだけだ。
自分でも直さなければいけないと思ってたけど、入学早々知りたいことが増えた。
中学生のときみたいに出しゃばらなければいいけど。
「いや…なんか、ごめん」
そう言って、彼は慌てながら本を机に置いた。
周りが騒がしい中、私たちは沈黙していた。
少しして桐山たちがショートコントみたいなのをし始めた頃、高橋くんが口を開いた。
「…話そっか」