すると桐山はバッ顔をあげた。
そして「そうだ!」と一言言い、後ろを振り向く。
後ろの席には、座って静かに本を読んでいる男の子がいた。
名前はー…なんだっけ。
「よっ」
桐山は後ろの男の子に話しかける。
でも、その男の子はチラッとこちらを見てまた読書に戻った。
私は無愛想なやつだなぁと思ったが、桐山はめげなかった。
するともう一度「よっ」と 言いながら、首を前に出してその子に顔を近づけた。
これでさすがに無視はないだろうと私は思った。
しかし、その男の子は睨むようにこちらを見て教室から出て行った。
私たちの前には、その少年の読んでいた本だけが置かれていた。
「なにあれ」
綾乃がボソッと口にした。
私も、あの態度にはちょっと頭にきた。
でも桐山はそうは言わなかった。
「何か事情があるんだよ、きっと」
そう言って体勢を戻す桐山。
「……」
私と綾乃は黙って目を合わせた。
"勝輝らしいや"
私たちはクスッと笑った。
やっぱりこいつはいいやつだ。
道理で友達がたくさんいるわけだ。
「ほら、次移動教室だよ!!」
桐山が物理の教科書を机から出しながら言った。
「あ!!やばい、もう誰もいないじゃん!」
私と綾乃も急いで準備をする。
こんな慌ただしい日常を送っている私たちだけど、なぜか今がとても楽しい。
そんな日がずっと続けばいいな。