「なぁなぁ。上野ちゃん」
斜め後ろらへんから私を呼ぶ声が聞こえる。
授業中に話しかけてくるなんて、だいたいもう誰だかわかっている。
「上野ちゃーん。勝輝くんだよ。しょ・う・き」
なんて、言葉の最後にハートマークをつけてコソコソと何か話してくる。
でも私は、面倒くさいから無視しておいた。
高校最初の授業で話なんてしていたら、これからの授業についていけなくなる。
コイツ1人の所為でこの先後悔したくなんかない。
そう考えながら頬杖をつき、先生のチョークの先を目で追っていた。
「上野ちゃーん!!無視しないでよ。ね~」
「もう…」
私はひとつため息をついて、左手の親指を立て、それを逆さまにした。
すると、「ひっどーい」と言いながら授業に戻る桐山。
そして同時に、斜め前に座っている綾乃も私と同じように頬杖をつき、私の方に目をやる。
それに対し、私は目で"なに?"と問う。
すると綾乃はクスッと笑って前を向いた。
綾乃の黒髪ロングヘアーがなびき、シャンプーの香りがここまで漂ってきた。
今の桐山とのやりとりでも見ていたのか。
授業中に後ろを向くなんて綾乃らしくないな、なんて思った。
綾乃が中学の時、どれくらい勉強できたのかはしらないが、結構真面目そうに見える。
まだ出会ったばかりで綾乃とはお互い分かりきれていないところもあるけれど、
とりあえず今は少しずつ打ち明けていこうとおもう。
"親友"と呼べる友達を作るのが昔からの夢。
だから、綾乃のことをもっと知りたい。
同じ桐山でも男の方は別にどうでもいいけどね。
「はーい、授業終わるぞー」
英語の先生がそう呼びかけると、クラス全員が一斉に前を向き
礼をする。
「はー、終わった~」
机に倒れ込む桐山。
「あんた別に勉強してないんだから疲れないでしょ」
私がそう言うと、「しゃべれないのはつらい!!」と言ってグチグチなにか言っている。
それを見た綾乃は苦笑いを浮かべる。
「ほら、そんなことしてるうちに休み時間無くなるよ」
「そうだよ勝輝。どうせいつも残り1分くらいで話し始めてチャイムなったらまたグチグチ言うんだから」