「佳奈美~」
「あ、唯どうだった?」
「うん、バッチリ!!
なんだけどさぁ…」
「ん?どうした?」
「何か、どこの中学出身?
って聞かれて、東中って答えたら、めっちゃ、おどかれたんだよ…
どういうこと?」
佳奈美は、一瞬考えるようなそぶりを見せたけど、すぐに、わかったような顔をした。
「唯、それは、あんたが有名だからだよ」
「ん?なんで?
わたし、有名なんかじゃないよ?」
何か、悪いことでもしたっけ?
私が、有名な理由なんてないけど…?
「唯は、サックスが上手って、中学の頃から有名だったの!!」
「へ?」
私、そんな有名なほどサックス上手じゃないよ?
みんな勘違いしてるんじゃない?
「あのね、唯が気づいてないだけだから」
「へ?」
「わかんないならいいや」
「良くないよ!!」
もぅ、佳奈美、もっと詳しく教えてくれればよかったのに…
「では、合格者を発表します!」
先輩のその一言で周りはざわつき始めた。
何か、そわそわするなぁ…
「では、まずフルートから」
あ、佳奈美だ。
佳奈美は上手だから、絶対に合格している。
「…佳奈美さん」
あ、やっぱり佳奈美は、合格だ。
わたしも合格してればいいんだけどなぁ…
「では、次にサックス。唯さん」
あ、私?
合格だって!!
やった~!!
また、佳奈美と一緒に部活ができる!!
「唯、頑張ろうね」
「うん!!」
合格した一年生は、とりあえず解散となった。
合格しなかった人は、どこの部活に入るか決めるみたい。
とりあえず合格してよかった!!
「唯、帰ろうか」
「うん!!」
わたしと佳奈美の家は、私が引っ越した事で、かなり近くになったから、一緒に帰ることができる。
これから、毎日一緒に帰れる!!
楽しくなりそうだな~
今日から、いっしょに住むことになった俺たち。
あいつは覚えていないらしいが、中学になるまで、よく遊んでいた。
中学は、離れてしまったが、隣の中学だったため、あいつの噂は、俺の耳にも入ってきていた。
あいつは自覚していないが、美人だ。
加えて、サックスが上手らしい。
昔からなんでも軽々とこなしてきたあいつには弱点が一つだけある。
それは…人よりも体が弱いこと。
体力がないんだ。
これもまたあいつは自覚していない。
だから、ほっといてひどくなってしまったことがある。
一番ひどかったのは、体育でマラソンをしていた時だ。
体力がないのに、無理して最後まで走ったからだ。
その時は、喘息の発作を起こし、救急車を呼ぶはめになってしまった。
それでもあいつは、自覚をしない。
それはそれですごいと思うんだけどな。
とにかく、唯のお母さんが俺たちをいっしょに住ませたのは、俺があいつの体をあいつよりもわかっているからだと思う。
このことは、あまりほかの人は知らない。
あいつが人の前では我慢をするからだ。
だから悪化するんだけど…
中学の時にも、家に帰ってきてから、体調を崩すことが多かったそうだ。
今日は、部活が、結構長引いてしまった。
唯、大丈夫かな?
新しい環境についていけなくて、体調を崩すことがあるから…
「零、帰ろっか」
「おぅ」
こいつは、中学の時からいっしょにいる礼央。
こいつは、俺とは、正反対の性格をしている。
あいつは、明るくて、人なっこい。
そんなところが、モテるんだろうけど。
家が近いから、いっしょに帰ることにした。
「なぁ、あれ唯ちゃんじゃね」
「はぁっ?」
なんでこんな時間に、あいつがこんなところにいるんだよ…?
しかも、少しふらついてるし…
絶対に体調悪いだろ。
また、我慢しているんだ。
本当にこりないやつだな…
急いで、俺は唯のもとに行った。
「唯」
「…零くん?」
「あぁ、なんでこんな時間に帰っているんだ?」
「部活…」
はぁっ…
部活入っちゃったか…
吹奏楽部だろうけど…
また、心配事がひとつ増えちまうじゃねぇか…
「身体、しんどいんだろ?」
「…‼
そんなことないもん…」
ばれちゃったみたいな顔をして、そんなこと言えるかよ。
「とりあえず帰るぞ」
「…うん」
唯は、隣にいた女に、手を振ていた。
っていうか、いたんだ。
なんでこいつは、気づかなかったんだ?
こんなにも、体調が悪そうなのに。
でも、いまは早く帰ってこいつを寝かせないと。
角を曲がり、礼央たちが見えなくなると、唯は倒れそうなくらいふらついた。
「おっと…」
地面につく寸前で、こいつを抱きとめた。
身体が熱い…
こりゃ、相当我慢してたな…
もっと、早く気づいてあげればよかったな…
「唯、いつから調子悪い?」
「お昼…」
「そっか…」
昼か…
保健室に行けばよかったのに…
なんで、我慢するかな~
少しは、自分の身体を理解すればいいのに…
家について、熱を測って見ると、38℃0
はぁっ…
よくこんなに熱があるのに、歩けたなぁ…
まぁ、それが、こいつの意地なんだろうけど…
あんまり無理をして欲しくないのが俺の本音。
本当のことを言うと、部活にも入って欲しくなかった。
さすがに、そこまで言うと、唯におこられる
俺は、唯のことになるとかなりのしんぱいしょうらしい
どうしようもないんだけど…
「めし、なんか食うか?」
「…いらない」
「じゃ、薬のめ」
「寝る‼」
あ、逃げた…
あいつの薬嫌いは、まだ健在かぁ…
困ったなぁ…
このまえ、婚約者だといわれた感じではない。
もう、長く付き合っていそうなかんじ。
俺の勝手な想像だけど。
こいつは、人見知り。
しかも、極度の。
なのに、久しぶりにあった時、それから、この家に始めてきた時、こいつとは、普通に話せていた。
昔のことを、こいつの頭は忘れていても、身体が覚えていたんだろうな…
きっと…
俺は、しょうがなく、自分の口に、水と薬を含ませた。
そして、唯に近づき…
「…んっ」
口移しをした。
早く良くなって欲しいからな。
てか、こいつに始めてキスした…
まぁ、いいっか、これからたくさんするつもりでいるしな。
俺は、ぐっすりと眠っている唯の頭をやさしく撫でた…