クリスマス・イヴの午後7時。宇美は“一”に言われた通りにヘブンキレブン前にいた。店の中ではサンタの恰好をした酒巻が働いていた。
突然後ろから右肩をポンと叩かれた。振り向くと、知らない女が立っていた。「?…。」
「木村宇美さん?」
宇美は小さく
「はい。」
と答えた。
「はじめまして。近田知子といいます。いつも兄がお世話になっています。」
宇美はわけがわからず、ただ近田の顔を茫然と見ていた。
「あのー、兄って?」
「あ、ごめんなさい。私は速水ヨコイチの妹です。」そういわれて見れば、何となく速水に似ている気がした。しかし、何で速水の妹さんがここにきたのかわからなかった。
「兄からこれをあなたに渡すよう頼まれて預かってきました。」
そう言って妹さんは一通の手紙を差し出した。
手紙の表には“海へ”と書かれていた。
妹さんは宇美に手紙を渡すと、「さようなら。」
と一言残して去って行った。やっぱり“一”の正体は速水だったのだ。宇美は言葉にならないショックを受けた。大好きな速水が“一”だなんて信じられなかった。あの優しい速水がどうして宇美の秘密をばらしたというのか?