10月に入ると、二人の関係はより近く熱くなっていた。宇美は速水を
「よーちゃん。」
と呼んでいた。速水は最初、
「やめてくれよ。」
と照れていたが、学校ではそう呼ばないことを条件に許してくれた。宇美は速水の気持ちを知りたいと思いつつ、直接は確かめられずにいた。あの時、酔った勢いで言ったことは本当なのだろうか。素面の時に速水の口から“お前が好きだ”と言われたかった。
ついに二人の夢が現実になった。牙オッテカキーンズが優勝したのだ。昨シーズンは4位だったのに…。31年振りの快挙だった。二人は決まった瞬間球場で抱き合って喜んだ。野球でこんなに盛り上がったのは生まれて初めてだった。宇美は速水と一緒に喜べたことが嬉しかった。
「木村、今日は飲むぞー。」
「オーッ!」
二人は最高の気分に浸っていた。
その時、バックスクリーンに二人の様子が写っていたことには全く気付いていなかった。