1月の寒い日だった。宇美はいつものように駅前で光男と別れて、一人自転車をこぎだした。
「オイ、きむらー。」
と、突然後ろから誰かに声をかけられた。振り向くと笑顔の速水が右手を小さく上げて(「やぁ」のポーズ)立っていた。
「先生…。」
「なんだ、気がつかなかったかー。」
宇美は前を歩いていた速水を気づかずに追い抜いていた。薄暗いのでわからなかった。
「家は近くだろう?一緒に帰るか。」
えっ、近く?宇美は公務員住宅の団地に住んでいた。まさか…先生も?宇美は自転車を降りた。二人は横に並んで歩いた。宇美は自転車をおしながらわざとらしく聞いてみた。
「先生はどこに住んでいるんですか?」
「お前と同じ団地だよ。」やっぱりそうか。宇美は嫌だなーと思った。先生と同じところに住んでいるなんて最悪だ。これからは先生の目を気にして外出しなければならないかと思うと、宇美は肩身が狭くなった。速水は宇美が寄り道したことを問い詰めなかった。