ガルンが温かいお湯につかり、清潔なタオルで身をくるみ、傷んだ髪を卵黄でキレイにし、いい匂いのオイルですいてもらっている、その同じ瞬間、洗濯や料理をする水にも困っている家がある。


王家と民が遠くへだたった大国ならまだしも、毎日のように顔を合わせ、長と民が同じ食卓を囲むことさえある小さな町でのことだ。

困っている隣人を尻目に贅沢したっていい気持ちでくつろげるはずもない。



――くつろげないのは、ガルンがあまり風呂が好きではないというのも大きいが。



「本当は今だって、毎日お手入れすべきなんですよ。
姫さまは自分の髪が灰色で気に食わないとおっしゃるけれどね、それだってちゃんと油をつけて痛まないようにしていればもうちょっと濃い色になるんですからね。」


珍しくおとなしいガルンに、マルタは上機嫌でしゃべりつづけている。

ふわりと首筋が温かくなって、髪がほどけて広がったのが分かった。