そんなわけで今、ガルンは大きなたらいの中に座らされ、タオルに包まれている。



「・・・ねえ、こんなにお湯使っていいの?
雪解けもまだだし飲み水だって少ないのに。」



手のひらでお湯をすくってはこぼしながら、ガルンは口をとがらせた。

浅いとはいっても、お湯は座ったガルンの腰まである。



「いいんですよ。
出稼ぎの男たちが帰って、今年分の炭は届いたばかりでたくさんあるし、あと1週間としないうちに山の水が町まで届くでしょうからね。」



マルタは上機嫌で聞く耳をもたない。ぱちん、と小気味よい音が狭い湯殿に響いた。
髪を結えていた紐を切った音だろう。



水の貧しいノルムでは、めったに風呂には入らない。
いつもは濡らした布で体を拭き、女たちが髪を洗うのはせいぜい月に1、2度。
それだって山脈からの雪解け水が井戸に満ちている春夏の話だ。


城の女たちは冬でもお湯を使えるが、町のみんながそうではない。

たくさん炭を買えない家では、身体を洗う湯など沸かす余裕はなく、ひと冬に1,2度、水で洗えれば良い方なのだ。