床には、ガルンが投げ捨てたドレスガウンが何枚も散らかされていた。

どれもこれも裾に袖に美しい刺繍をほどこした上等なものばかりだが、その中にガルンが好きな色はひとつもなかった。


どれもこれも嫌と袖を通さず肌着姿のままの娘に、エリザは何度目か分からないため息をついた。




誰に似たのか、一度気に入らないとなったら、ガルンは絶対に意思を曲げないのだ。逆に気に入ったものに対する執着も同じくらい強い。
この15年、娘に何かをやらせるにもやめさせるにも、母や乳母が裂いた労力は半端ではなかった。


「ガルン、これは決まりなのよ。不吉なことがあったから、ご先祖さまは赤を禁じたの。
あなたによくないことが起こるのは母さま嫌なの。分かるでしょう?」



無駄だと思いながらも、エリザはガルンの顔をのぞき込んで言った。
ガルンは目のふちをまっ赤にしながらも、澄んだ灰色の瞳で母の目をキッと見返した。



「昔の人の迷信だよ、そんなの。
もしほんとに不吉だとしても、あたしが同じになるなんて分からないじゃない。100年以上前の言いつけを守らきゃいけないなんてバカみたい。」