「来ないで!」



鋭く叫ぶやいなや、ガルンの右手は短刀を抜き放ち、男に突きつけていた。

わずかに残った夕陽を映して銀の刃が鈍く光る。
が、男はまっすぐに歩みを進めると、その切っ先のすぐ前に立ち止まった。

もうガルンの腕と剣の長さ分の距離しかない。




さすがにここまで近づくと薄闇でも顔が見えた。
旅人らしく丈夫なマントを着てフードをおろしているので、身なりは分からない。黒っぽい髪の、やはり若い男だ。
背が高く、鞍に座ったガルンの、胸のあたりに顔がある。




「…何がおかしいの?」



その表情をみてガルンは眉根を寄せた。
刃を向けられながら、男は楽しそうにほほえんでいたのだ。

薄い唇を笑みの形に保ったまま、彼は馬上のガルンを見上げた。男は瞳も黒っぽい色をしていた。



「可愛い門番さん。君はまだ戦士じゃないだろう?
戦士じゃない君は、俺を斬ることは許されていないはずだ。」