「…死神?」
そんな風にしか思えず、思わずガルンはつぶやいた。
この荒野に、馬もなくたったひとりで歩いてきたとは思えない。
徒歩なら1日半かかるはずで、絶対に野宿することになる。
町の熟練の戦士たちでさえ、ひとりでは野獣の王国と化す荒野の夜を越えられないのだ。
「残念ながら俺は人間だよ。
おもしろいね、死の女神をあがめるのに、死の使いは恐れるんだ?」
おかしそうに影は言った。笑いをふくんだその声は、確かに人間の肉声だった。
どうやら魔物の類ではないらしいが、人間なら、この現れかたはますますありえない。
荒野の外から町への道は1本だけで、ガルンは今日その道を何度も、つい今しがたも通ったというのに、この男どころか人っ子一人出会わなかったのだ。