「もしもし山田?
悪いな、さっきまで地下にいたんだ。
何か急用だった?」

内心不安なのについ平静を装ってしまう。

「先生…」

電話の向こうの山田の声は震えていた。

「泣いてるのか?」

武内と何かあったのか。
そう喉まで出かかったところで、山田がううん、とつぶやいた。

「違うの。
先生の声聞いたら、急にホッとしちゃって…」

途端に胸が熱くなる。

彼女に無理をさせているのだと再認識する。

「ごめんね。
電話なんかして」

俺は、いや、と笑う。

「俺も久しぶりに山田の声を聞けて嬉しいよ」

俺に今できるのは、彼女を安心させてやることだけ。

だから、できるかぎり優しい言葉をかけてやりたい。