「何があったか知らないけど、
朝から怒ってたら肌に悪いぞ。」
「えっ!? いや、
怒ってなんか(焦)」
私が慌てて否定すると、
部長は悪戯な笑顔で覗き込んで来た。
「す、すいません・・・」
「フッ、まあいい。
そうや、来週の金曜日の三田牛、
ちゃんと予約しといたから。」
「本当ですか!?」
「ああ。」
「ありがとうございます!!
楽しみぃ~。」
私は思わず笑みが零れた。
「ほんま美味いからなぁ~」
「そうなんですかぁ~?」
ああ~三田牛・・・
やっと食べれるぅ~・・・
幸せぇ~・・・
私は背中に羽が生えて、
飛んでいきそうなくらい幸せだぁ~。
「まぁ、楽しみにしとけ!!」
阿部部長はそう言って、
大きな手で私の頭を
ポンポンとやさしく撫でた。
部長・・・
私は頬がポッと赤くなった。
「さぁ、仕事仕事!!」
部長は元気良くオフィスに入って行った。
ああ・・・
大人の男・・・
包容力があって、やさしくて、
(三田牛奢ってくれて・・・)
イケメンでカッコイイ!!
それにあの大きな手・・・
あんな手で撫でられたら
キュンよきちゃう・・・
やっぱ阿部部長いいなぁ~・・・
私はしばらく阿部部長に
見惚れていた。
そんな私を、政文は
悲しい瞳で見ていた。
私はルンルン気分でオフィスに向かった。
「おはよう麗奈。」
オフィスに入ると、
晴美がいつものように
笑顔で声を掛けて来た。
「おはよう。」
「なんか上機嫌やね?」
「わかるぅ?」
「めっちゃね。」
私は明らかにわかるテンションで
オフィスに入って来たらしい。
「政文となんかあった?」
「はぁ!?」
「えっ!? 違うん?」
「なんで政文やねん!!」
「なんやぁ~てっきり政文と
何かあったんかと・・・」
「ありえんし!!
あんな失礼男!!」
(失礼なのはおまえだ。)
「じゃあ、どうしたん?」
「阿部部長がぁ~
金曜予約取れたってぇ。」
「まじで!?」
「うん。」
私は思わず飛び上がりそうに
体を弾ませながら笑顔で答えた。
「行くん?」
「当たり前やんかぁ!!
私の憧れの人やでぇ~・・・」
「憧れかぁ~・・・」
「何!? なんかおかしい?」
「いや、政文はどうなんかなって・・・」
なんで政文?
「なんで政文なんよ?」
「いやぁ~なんか・・・」
「晴美、昨日からおかしいで?
政文、政文って、何なん?」
「いや、麗奈は政文のことが
好きなんちゃうかなぁ~って。」
「そんなんあるわけないやん!!
ずっと言ってるやろ?
私が阿部部長が好きやって!!
阿部部長以外考えられへん!!
最高の結婚相手やわぁ~!!」
「結婚相手かぁ・・・」
「何!?」
「いや、何でもないよ。
麗奈がそれでいいなら、
私は応援する!!」
「ありがと。」
なんか晴美の言い方
が引っ掛かるわぁ・・・
私は仕事に没頭した。
嬉しいことがあった後だ、
仕事もはかどるはかどる!!
「部長、これ出来ました!!」
私は仕上げた資料を
阿部部長に持って行った。
「ありがとう。
ホント君がいて助かるよ。」
「ありがとうございます。」
「今度、大きな企画を任せてみようかな?」
「えっ!? 私にですか?」
「ただの資料作成だけじゃもったいな。
君の隠れた実力は僕がよくわかってる。」
「部長・・・」
この人、ちゃんと見ていてくれたんだ・・・
「それに、何より仕事が正確。
そして真面目で責任感もある。
そんな人材を眠らせておくのは
もったいな。
今度、上の人にも話しておくよ。」
「本当ですか?」
「うん、頑張ろう!!」
「はいっ!!
ありがとうございます!!」
私は深く一礼をして、
自分のデスクに戻った。
やったぁ・・・
もっとすごい仕事ができる!!
いろんなことに挑戦できる!!
仕事が好きな私にとって
何よりの喜び!!
阿部部長は、こんな私を
ちゃんと見ていてくれたんだ・・・
私は嬉しくて心の中で
何度もガッッポーズをした。