「政文、ホテル代ケチったでしょ?
この部屋何にもないじゃない・・・」
「どうして・・・?」
「んんっ~? 何がぁ~?」
政文が蚊の泣くような声で問うと、
麗奈は軽き聞き流すような返事をした。
「どうして・・・
こんな・・・」
「はぁ!? 何!?
私とのキスが不満なわけ?」
「ちがっ・・・」
「まぁ、あのまま政文がキスしてきたら
黙って抱かれてあげようと思ったけど、
やっぱりダメねぇ~・・・
政文じゃ私を満足させるのは無理みたい。
やっぱ私と寝ようなんて、
100万年早いわ!!」
「・・・・・」
政文は麗奈をじっと見つめた。
「何よその目は? なら何?
私を満足させられるの?
じゃあ今からやる?」
「麗奈さん・・・」
「そんな度胸もないくせに!!」
私何言ってるの?
「麗奈さんがそんな人とは
思ってませんでした・・・」
ち、違う・・・
これは・・・
「何よそれ? 私に失望した?」
「・・・・・」
「ああ~そう、いいじゃない。
そうよ、私はそんな女。
あんたなんかに付きまとわれるのも
迷惑だった、嫌われてちょうどいいわ!!」
ち、違うよ・・・
「そう・・・ですか・・・」
政文はソファーに掛けていた
上着を着て鞄を持ち、玄関に向かった。
えっ!?
何・・・?
「ちょっと・・・」
どこ行くのよ?
「帰ります・・・」
えっ!?
「そう。」
麗奈は平然顔でそう言った。
政文は振り返らずに部屋を出て行った。
うそでしょ・・・
政文・・・
置いて行かないでよ・・・
政文・・・
麗奈は力なく、
その場にへたり込んだ。
月曜日、私はいつもより
濃い化粧をして会社に向かった。
こそこそと人混みを歩き、
俯いたまま会社に向かう。
「おはよう麗奈ちゃん!!」
「おはようございます。」
「あれっ?」
男性社員の挨拶にも目を合わさず、
軽く会釈するだけで通り過ぎた。
そして、オフィスに入ると、
「麗奈!!」と、晴美が
元気なテンションで近寄って来た。
「お、おはよう・・・」
「おはよって・・・
どうしたの?」
晴美は私の頬を両手で持ち、
顔を持ち上げた。
「麗奈・・・
泣いたの・・・?」
はい、泣いてました・・・
私は土曜、日曜と
何故か涙が止まらなくて
ずっと泣いていた・・・
「えっ、いや・・・
ちょっとね・・・」
「まさか・・・
阿部部長が・・・?」
晴美は心配そうな顔で
私の顔を覗き込む。
「ううん、違う!!
なんでもないんだ!!」
私はそう言って晴美の横を通り過ぎた。
晴美が心配そうに私を見ている、
晴美の視線を痛いほど感じる。
ごめんね晴美・・・
本当は全部話したい、
聞いてほしい・・・
でも、私の中でまだ整理が出来てないの。
なんでこんななのか?
なんであんなに泣いたのか?
私、何が悲しかったんだろう・・・
部長に約束をすっぽかされたこと?
それとも政文の・・・こと・・・?
一体何なんだろう・・・
そんな気持ちのまま一日を過ごした、
仕事もなかなか手につかず、
簡単なミスもしてしまった。
みんなはやさしく、
「そんな日もあるよ。」
って、言ってくれたけど、
情けない・・・
仕事とプライベートは別、
ちゃんと分けてきたはずなのに・・・
時間はもうすぐ5時、
私は仕事を終える前に、
今日まとめた資料を
資料室へと持って行った。
すると目の前に・・・
「政文・・・」
「麗奈さん・・・」
「ちょっ・・・」
私は平常心を装い、
いつものよに話しかけようとしたら、
「お疲れ様です。」
そう一言言って、
政文は私の横を通り過ぎて行った。
政文・・・
私は振り返り、政文の背中を見つめた。
政文・・・
やっぱり嫌われちゃった・・・?
やっぱり私みたいな女・・・
「東條くん!!」
はっ!?
後ろから名を呼ぶ声に
私は振り返った。
「部長・・・」
そこには阿部部長が立っていた。
「昨日はごめんね、
急に仕事が入っちゃって。」
部長は何の悪びれた様子もなく
普通に話し掛けて来た。
何?
私の横を平気で通り過ぎておいて
なんでこんなに普通なの?
まさか本当に気付いてなかったの?
「い、いえ・・・
それじゃ仕方ありませんね・・・
では、失礼します!!」
私がそう言って部長の横を
通り過ぎようとすると、
ガシッ!!
腕を部長に掴まれた。