楓のチェスの相手をしていると、
小さな島が見えて来た。
海辺は綺麗だが、少し奥に入ると
すぐに迷子になりそうな程
木が茂っていて、何だか怖かった。

どうやら無人島のようだ。
船をつけて島に降り立つと、
一晩中船を漕いでいた仲間達は
喜びの声を上げた。
ここでまた、一夜を過ごす。

生きる為に必要なのは
水、食料、そして火だ。
この場所に、そしてこの時代に、
電気もガスもあるはずがなく、
私達は焚き木という古風な方法で、
火を起こす事になった。
私は火の傍から離れていた。
暑くって仕方ない。
 

岩場にかがんで何かを見ている
凛に声をかけた。
何かを捕まえようとしているらしい。
「何してるの?」
「蟹だよ。」
「カニ?本当に
生き物が好きなんだね、凛は。」
「あぁ。生きてるからな。」
何だか意味深な凛の言葉に、
私は返事をする事が出来なかった。

小さな蟹は波に飲まれまいと、
ハサミを広げて必死に抵抗していた。
その蟹が流されて見えなくなるまで、
私はずっと見入っていた。

今回、私は蟹を海から掬い出して、
助けようとしなかった。
それは何だか、
間違っているような気がしたからだ。

島での寝床は船だ。
昨日はふかふかだった藁も、
今日は心なしか寝心地が悪かった。