「ごめん……」
こっそり見上げた彼の背中から、
確かに優しさが伝わってくる。

楓が池と呼んだそれは、水と木のある
小さなオアシスみたいな所だった。

歩き疲れた私達は、
そこで一晩過ごす事にした。
初めての野宿は、以外と楽しい。

「二人、化粧してなかったんだ。」
寝支度をする私達を見て、
風が少し驚いたように言った。

姉妹は顔を見合わせると、
ふっと笑った。いつもの事だ。
 
「色白でまつげ長いから、
 化粧みたいに見えるでしょー。」
楓が嬉しそうに言った。

姉妹と兄弟は少し離れて横になると
辺りは再び静けさに包まれた。

「風は本当にいい人だよー。
 優しくて、よく気が付くしー。」 
楓が小さな声で言った。

「ん、好きなの?」
楓が一目ぼれするなんて、
前代未聞の大事件だ。
 
「自分でもよく分からないー。
 まだどこか心閉ざしているしー。
桜はー?凛とどうなのー?」
 
私は答えなかった。
楓も返事を待つ気はないらしく、
寝返りを打つ。