【BL】ラブ・新撰組【衆道】

恋の
予防
接種
 このところ世を賑わせている一番の話題は、なんといっても、伴天連から日本に上陸した新型の流行風邪だろう。
京都の治安をあずかるここオトコパレスでも、風潮にならい、流行風邪にかからぬよう予防の喚起が土方よりされていた。
「市中見廻りをする際、各自、必ずマスク着用のこと。また、外出から戻ったら手洗いうがいを忘れずに行うこと。以上」
稽古場に集まった組長、隊員たちは土方の説明を真剣な面持ちで聞いている。しかしその中に、ここに必ずいて然るべき、彼らの最高指導者がいなかった。
「斉藤、近藤さんがいないけど・・・」
沖田は、横でなぜか体育座りでいる斉藤に小声で言った。斉藤は手で自分の足の指をもてあそびながら、
「近藤さんは、伴天連の風邪に万全の態勢をとる、って言って出かけましたよ。たぶん、近藤さんだけに全身こんどう・・・」
「やめろ、バカ!第一、そんなことをしたら風邪をひくひかない以前に息ができなくて死んじゃうだろ」


つい声が大きくなってしまった沖田を、土方が鋭く睨みつける。
「そこの二人。ちゃんと俺の話を聞いていたのか?今回の流行風邪予防の、注意点を言ってみろ」
「ええっと・・・」
口ごもる沖田に代わり、斉藤が行儀良く右手を上げて、指されてもいないのに答える。
「はーい、風邪をひいている人とベロチューをしてはいけない、どうしてもしなければならない時には、相手が寝ている隙に『キミがかわいすぎるからイケナイんだゾぉ』って言いながらする、です!」
斉藤は、笑顔でさらに付け足した。
「昨日の晩、寝ている沖田さんにこっそりしました」
「さっ、斉藤、キサマ!人が寝てる隙に!」
「お前ら、人が真剣に話しているというのに!」
土方が竹刀を上段に構え、沖田と斉藤に向かって一歩、歩を踏み出す。
そのとき、稽古場に、一人遅れて近藤がやってきた。
「恋の病は気から!水際対策が失敗したのなら、接近戦で愛を確かめ合おう!」
近藤は、甲冑姿だった。

一同が呆然とする。
「あの、局長、なぜ甲冑を?」
土方も面食らいながら、近藤に聞いた。
「もち風邪予防よ。最初はさ、全身アレにしてみたんだけど、ゴム製品って空気通さないじゃん?風邪予防どころか死にかけたよ。息できなかったら、キスどころじゃないもんね」
そう言って笑い飛ばす近藤に、斉藤は得意の妖しい笑みを作りながら拍手を送った。
「さすが近藤さん。一度は試したんだ」
「局長、流行風邪をなんだと・・・」
唖然とする土方をさておき、近藤は両腕を高々と上げて、沖田・斉藤以下の隊員たちに向かって叫んだ。
「これでへっちゃら!さあ、どこからでもキッスして来い!」
「よーし!」
斉藤がぴょんと飛び上がり、低い姿勢で近藤との間合いをつめる。近藤も腰を落として、じりじりと右回りに移動しながら、斉藤との間合いをはかった。
あっけに取られている沖田に、先に我にかえった土方が、壁にかけてあった竹刀を投げてよこした。
「俺が局長をやる。今日は沖田が斉藤をやれ」
沖田は竹刀を握ると、ため息をつきながら立ち上がった。
(やれやれ。予防なんかしなくったって、ここの人たちは風邪なんかひかないよ・・・)
土方、近藤、斉藤、沖田が直線上に並んだとき、オトコパレスの稽古場に、二人の男の悲鳴がこだましたのだった。

金剛石とともに空へ

夏だというのに、空には灰色の雲が薄くまとわり付き、空気は蒸し暑かった。
市内見廻りから返ってきた沖田は、出かける前まで、庭で子牛のドナドナと遊んでいた斉藤がいなくなっているのに気づいた。
(いなければいないで、どこかで、おかしなことをしているのじゃないかと心配になってしまうな)
少しの不安が沖田の心にひっかかる。
オトコパレス2階の幹部専用まったりルームに戻った沖田は、そこに斉藤を発見した。
「あぁ・・・おきたさぁん、おかえりなぁ・・・」
斉藤はふんどし一枚姿で部屋にいた。瞳がうつろに濁っている。
沖田は、斉藤が手にしているキセルを見て見当をつけた。
「斉藤、貴様、アヘンをやってるのか!」
「うーん、まんもすエクスタP」
斉藤は畳の上をごろごろと転がっりながら返事した。
「バカ!今日は本気でおしおきするぞ!」
沖田は斉藤にまたがりマウントポジションを取った。
「おきたさん・・・小さくて、ごめんね」
「なにを想像してるんだ!」
ふしだらな妄想に溺れている斉藤に、沖田はビンタを振り下ろそうとしたが、その手を後ろに現れた男がつかんで止めた。
「そこまでだ。・・・沖田、お前間違ってるぞ」
男は、近藤だった。
「近藤さん・・・だって斉藤が・・・」
「沖田、お前はタチじゃない。ネコであるべきなんだよ!」
近藤は沖田にビンタをお見舞いすると、自分から倒れこんで、
「でも、ちょっと斉藤がうりゃまP!俺の上にも、乗ってみれ!」
と、モジモジと身をよじらせた。
近藤の痴態に感化されて、斉藤は体を跳ね上がらせ、叫んだ。
「ここで予想外のWバーガーなのです!」
斉藤は近藤の体に覆いかぶさると、挑戦的な瞳で沖田を振り返った。
「沖田さん、こちらでお召し上がりですかー!?」
「貴様らぁー!」
変態たちの願いに答えるつもりはなかったが、沖田は彼らの上に飛び乗った。
近藤と斉藤、男たちの悲鳴が上がる。
「なっ!?」
瞬間、沖田の下腹部の下の、二人の男のさらに下、1階から、熱いなにかが響いてきた。
(またか・・・お前らは、よほど粛清が好きらしい・・・)
それは、土方の声ならぬ声だった。
「ひいィ!」
急いでその場から逃げようとする沖田を、下から近藤と斉藤が捕らえた。
階段が踏みしめられてきしむ音が、だんだん、彼らに近づいてくる。
「はっ、放せ!今日の僕に過失はないぞ!」
「ふふふ、僕悪い子じゃないよォ!か・・・そのセリフも、ディ・モールト良いだな!」
近藤が上ずった声で答えながら、さらに強く沖田の体を引き寄せた。それに、
「ゲーゲッゲッゲッゲ!」
斉藤の不気味な笑い声が重なる。
「そんなじゃなく、あっ!」
沖田の抗議も虚しく、ガラリ、と三人のいる部屋のふすまが開かれた。
(僕もセットメニューになっちゃったのかなぁ・・・)
沖田はあきらめて、体のちからを抜いた。


イカロス

その夜、斉藤は悪夢にうなされていた。
夢の中で彼は、空高くそびえる岩山の頂上に裸で大の字に横たわり、身動きひとつ取れないでいた。目に入る空は、斉藤をあざ笑うかのように見事な晴天であった。
(ええい、天気もいいし僕もなぜだか素っ裸だし、なのに動けないとは・・・!しかし、手足が戒められていないのに、なぜに動くことができないのだ)
山の麓からであろうか、心地よい風が斉藤のデリケートゾーンをなでた。
(嗚呼ッ、その部分に自信アリ!だがなぜだ・・・僕の体を戒めているのは、他でもない、その部位であるような気がする)
斉藤は自らの下腹部を見ようと、重い頭を必死にもたげた。
そしてなんとか頭を持ち上げた斉藤は、そこに予期せぬ光景を目にしたのだ。
「きゃん!近藤さん、ローソクを斜めにしては、ダメなりー!」
斉藤の足元に立った近藤が、手にした蝋燭を傾け、溶け出した蝋を斉藤の自慢の部位にたらしているのだ。
蝋は落ちていく間に冷めて、斉藤の体にあたるとすぐさま固まり、斉藤の体の一部に白い小さな山を作り上げていた。
「ハジメちゃん。今まで秘密にしていたが、俺はヘンタイだったのだ」
近藤が申し訳なさそうに言った。
「そんなの知ってたー!」
「HAHAHA!ハジメちゃんは、おませさんだなぁ!」
近藤は笑いながら、蝋燭を持った右手をそのままに、左手で自らの下腹部を柔らかく覆って、
「ッタラーイク!バッターアウッ!」
と叫んだ。