このところ世を賑わせている一番の話題は、なんといっても、伴天連から日本に上陸した新型の流行風邪だろう。
京都の治安をあずかるここオトコパレスでも、風潮にならい、流行風邪にかからぬよう予防の喚起が土方よりされていた。
「市中見廻りをする際、各自、必ずマスク着用のこと。また、外出から戻ったら手洗いうがいを忘れずに行うこと。以上」
稽古場に集まった組長、隊員たちは土方の説明を真剣な面持ちで聞いている。しかしその中に、ここに必ずいて然るべき、彼らの最高指導者がいなかった。
「斉藤、近藤さんがいないけど・・・」
沖田は、横でなぜか体育座りでいる斉藤に小声で言った。斉藤は手で自分の足の指をもてあそびながら、
「近藤さんは、伴天連の風邪に万全の態勢をとる、って言って出かけましたよ。たぶん、近藤さんだけに全身こんどう・・・」
「やめろ、バカ!第一、そんなことをしたら風邪をひくひかない以前に息ができなくて死んじゃうだろ」