総司の手は本来そこにあるはずのポケットの底を素通りし、人肌の温かさを持った何かに行き当たった。
「きょ、局長・・・これは?」
桃色の間から降り注ぐ木漏れ日を見上げ、眩しそうに目を細めながら近藤がつぶやく。
「俺の虎徹だ。こうしておけば、いつでも触れるだろう?」
あわてて手をひっこめ、頬を赤らめて目を伏せる総司。そんな美少年を横目でチラリと見ながら、近藤は何気ない風を装い話を続ける。
「なあ、お前の菊一文字なんだが・・・」
「局長!昼間から菊とか、やめてください!」
(思わぬところに食いついてきたな)
近藤は口元を緩ませ、総司の恥じらいを楽しんだ。
「くくく、実はこいつはナマクラなんだ」
「馬鹿なこと言ってないで早く局に戻りましょう」
遠くで花見の人々の騒ぐ声が聞こえた。時は今まさに春なのだ。