「それは残念」

ちっとも残念そうに見えない藤原は、脳死の本と枕にしていた分厚い本を、重そうに抱えて立ち上がった。

ちらりと盗み見した分厚い本は医療用語事典で、興味本位で読む割には本格的な気がした。


藤原はプリーツスカートの乱れを直すと、「じゃあね」と言って、ドアの方に向かって歩き出した。


「あ、ちょっと待って」

瀬尾が藤原を呼び止め、購買の袋を持ち上げて言った。


「一緒に食おうよ。たくさんあるし」

「え、でも悪いよ」


「いいっていいって。な、智史」

「あ、うん」


「じゃあ決まりってことで。おいでよ」

瀬尾はその場に胡坐をかいて座ると、楽しそうに鼻歌を歌いながら、袋の中のパンやらおにぎりを取り出して広げた。