「あたし、大学行かないかもしれない」

藤原がぽつりとつぶやいた。

「……え、何で?」

俺は予想もしていなかった藤原の言葉に、思わず聞き返した。


「あたしが大学行かないのって、おかしい?」

「全然おかしくはないけど……。進学以外で他にやりたい事でもあんの?」

「ううん、特には」


藤原はそう言うと窓を閉め、机の上のペンケースを鞄の中にしまった。

「いきなり変なこと言ってごめん。気にしないで。――そろそろ帰るよ、バイバイ」

「……あぁ。じゃーな」


俺は一人、強烈な西日の射す教室に取り残された。


目の前の藤原の机の上には、隅っこに集められた消しゴムのカスが残っていて、

黄色く染まったイチョウの木には、墜落した紙飛行機が刺さったままだった。