あなたを好きになったあの頃、
私はまだ子供でした。
恋と言うよりも、
憧れといった方が正しいかもしれない。
大人の優しさに、
子供が喜んでいた。
ただそれだけのこと。
難しい問題を解く度に、
あなたが驚きながら褒めてくれるのが嬉しくて。
嫌いだった塾が、
大好きな場所になった。
多分私はあの頃から、
あなたのために必死に勉強していたのかもしれない。
届くって信じてたから。
まだ子供だったから。
「遥花(ハルカ)、今日ご機嫌じゃん。
いいことでもあった?」
教室にやってきた私の顔を見て、
ニヤニヤしながら彼は言う。
「彼氏でもできたか?」
「んなワケないじゃん」
そうやってからかうところがずるい。
彼氏なんかできるはずない。
好きな人はあなたなんだから。
「そういう晃一(コウイチ)の方が、嬉しそうだけど?」
「あ、ばれた?」
さらにニヤニヤする晃一。
“ばれた?”も何も、聞いてほしかったくせに。
「しょうがない、教えてやろう」
そういう子供っぽい無邪気なとこも、
好きになってしまう。
いつから“晃一”って
呼び捨てするようになったんだっけ?
タメ口はきっと初めて出会った時からだけど。
家がちょっと裕福だったのと、
私が頭が良くなかったので、
小3の頃から通ってる塾。
個別授業だから、
先生達とは仲が良い。
こうやって気兼ねなく話す仲。
メールのやり取りもしたりする。
ある意味友達みたい。
でも、どの先生もそれを嫌がらないから
ずっとこんな態度。
「実はさぁ……」
もったいぶって、
なかなか続きを言わない晃一。