でも、この笑い方嫌いじゃないんだよね。
まぁちょっと恐ろしく感じはするけど…。
ドキドキの方が大きいから嫌いになれないんだよね。
それに、この笑い方をする時は先生が甘えたいって合図のような気もするし。
「あれ?いきなり大人しくなったな。」
先生、甘えたいのかな?
疲れてるから癒やしてほしいのかな?
もし、そうだったら…。
「おーい、伊緒?」
よし…違ったらはずかしいけどやってみるか。
「先生。」
グイッ
先生の力が緩んだすきに、先生の服を自分のほうへと引っ張る。
「うわっ!!」
すると、先生は私の思った通り前屈みになってくれた。
…チャンス。
「伊緒どうし…んっ?!!」
ひるんだ先生に、私は勢いよくキスをした。
子供な私が、ちょっと大人のキス。
付き合いたての私ならチュッてので精一杯だったけど…今日は少し長めのを。
私ができる精一杯の背伸びをしてみた。
「……っはぁ。」
でも…やっぱり恥ずかしくて耐えられない。
心臓の高鳴りが…。
先生の温もりが残った唇を隠すように手で覆うと、顔が熱いのがよく解った。
あぁ…しまった…。
やってから後悔するなんて、バカだ私。
しかも先生は何も言わない上に動かないし…。
何でもいいから、何か反応して下さいよ…。
――――――――……
あれ、何がどうなってるんだ?
唇に柔らかい感触が…。
「……っはぁ。」
伊緒の顔、真っ赤だな…。
唇に柔らかい感触、乱れた息。
そして、掴まれた俺の服。
あぁ、そうか…伊緒にキスされたんだ、俺。
しかも軽いものじゃなくて少し深めの…。
伊緒にしては珍しい大人のキスってやつだ。
ふーん…付き合いたての頃からじゃ想像も出来ないような行動だな。
「すいません…いきなりこんなことして…。」
そう言いながら、目を伏せて真っ赤になる伊緒の姿からは、どこか大人の雰囲気を感じた。
「先生?…聞いてます?」
でも、真っ赤になって照れる所は全然変わらない。
伊緒のこういうところ、何とも言えない愛しさを感じるんだよな…。
後ろ向きだったはずが、いつの間にか横向きに座っていた伊緒をもう一度力強く抱きしめた。
「伊緒…お前、誘ってんの?」
「え!!ちがっっ!!」
俺のたった一言で慌てまくる伊緒は、さっきよりもっと顔を赤らめた。
「な、なんでそうなるんですかぁ…。」
「はははっ。」
大丈夫、ちゃんと解ってるよ。
本当は俺のために頑張ってキスしてくれたんだって。
でも、もっと伊緒の色々な反応をみてみたくて、ついイジワルな事を言ってしまうんだ。
「もう…してあげませんからね。」
いやいや、それは困る。
俺の癒しの時間が減ってしまうだろ?
ぎゅっ、とさっきより強く抱きしめると、伊緒は少しだけビクッと反応する。
「…ありがと。」
慣れないこと色々頑張ってくれて。
俺のこと気づかってくれて。
沢山の言葉では恥ずかしくてできないけど、短い言葉でならいくらでも感謝の気持ちを表現するよ。
「伊緒、ありがとな。」
「…もう解りましたから。」
ただ『ありがとう』と言っただけなのに。
抱きしめてるからか?
伊緒がそんなに照れてるのは…。
「ふっ…かわい…。」
そんな伊緒に、俺の好きはまた積もっていくんだ…。
どうしよう。
めちゃくちゃキスしたい。
さっきしてくれたよりも、もっと深いの…。
「なぁ…コーヒー飲む?」
「え?コーヒーですか?」
「うん。」
俺の唐突な質問に困ってるのか、少し間をあけてから伊緒は口を開く。
「そんなに美味しいなら…少し。」
ニヤリ。
待ってました、その言葉。
手を伸ばしてコーヒーカップをつかもうとする伊緒の手を上からつかむ。
そして、コーヒーカップを俺の口へ。
「ちょっ、え、先生?!」
コクコクと喉を通っていくコーヒーは、すでに少し冷めていた。
でも、誰かにいれてもらったコーヒーは冷めても変わらず美味しい。
いつもよりほのかに甘く感じるのは、伊緒がいれてくれたものだと実感させてくれる。
「わー…いじめですか?先生が聞いたくせに全部飲んじゃうなんて。」
俺が持っているコーヒーカップを見ると、伊緒は頬を少し膨らませながらそう呟いた。
「あはははっ。」
めちゃくちゃ可愛い。
「何を笑ってるんですかぁ!!」
「ごめっ、あまりに可愛くてさ。」
「っっうぬっ!!!!」
「ぶはっ!!」
あんなに怒ってたはずのに。
俺の一言で、ただ可愛いって言っただけなのに。
顔を真っ赤にして照れてる。
その姿がまた可愛い。
「…先生のばかぁ。」
両手で真っ赤になった顔を隠す伊緒。
相変わらず照れ隠しが下手だ。
もう何度も照れるような言葉を言ってるっていうのに。
「伊緒、こっちむいて。」
もっと顔がみたい。
「え…?」
いや、ちがう。
「いいから早く…。」
本当は今すぐキスしたいっていう下心。
「どうしたんですか…?」
戸惑いながらも伊緒はちゃんと俺の要望に答えてくれる。
そして、それを知ってるから尚更いじめたくなってしまう。
「すぐ解るよ。」
キョトンとした伊緒の顔を勢いよく引き寄せ、接近させる。
「きゃっ…!!」
そして、そのままの変わらぬ勢いでキスをした。
「んっ…!!?」
さっき伊緒が飲みたいと言ったコーヒーの味のキス。
甘いには少し足りない、苦いコーヒーの深い味わい。
それが、俺たちのキス。