「じゃぁ、実力テストでいい点とれたらデートな。」
「えー、またその条件ですか?」
前もそんな約束させられた覚えがあるなぁ。
「その方がテスト頑張れるだろ?」
「うっっ!!!」
「あの時も頑張ったし、なぁ?」
不適な笑みがなんとも憎たらしい!!
でも、でも…可愛いから嫌いになれない…。
「もーっ解りました!!頑張ります!!」
完璧に先生に負けた私は、テストでいい点をとる約束をした。
無謀な気もしないでもないけど…貴重なデートのために頑張りますか…。
「ん、よくできました。じゃぁこれは前払いって事で。」
「えっ!!?え、えぇ!!?」
「うるさい。」
「!!!!!!!!」
唇に優しい感触が伝わった。
「キャ―――――!!!」
「「!!!!!???」」
伊緒にキスをした瞬間、背後から寄生のような甲高い声が響いた。
やっべ、もしかして…。
「一発気合い注入しましょうか?甲田先生。」
「わっわっうわぁっ!!!」
「横井さん落ち着いて下さい。」
あーあ、見られちゃったか。
しかも、よりによってキスの瞬間を…。
「誰かに見られたらどうするんです?」
「ははは…鍵は閉めてあるけどな。」
「…まぁその話しは後ででも。とりあえず二人を門まで送っていきませんか?」
「ん?あー、そうだな。」
放課後から話していたのに、時計はすでに六時を指していた。
「伊緒、そろそろ…って、あれ?」
固まってる。
驚いた顔のまま…。
しかも、伊緒の視線の先にいる横井まで。
進藤先生の顔を見ると、進藤先生もその光景に気づいたみたいで、少し困った顔をした。
いやでも、この光景…。
「…ふはっっ」
「…あははっ」
相当笑えるんだが、抑える方法が解らない。
たまらず二人で吹き出してしまった。
「…何で笑ってるんですかぁ!!!」
「こんの変態バカ教師ぃぃぃぃ!!!!!!」
いつも一緒にいるからか、二人はよく似ている。
笑いのツボや怒るタイミング、好みもよくあうと伊緒が前言ってたな。
まぁだから仲がいいんだろうけど。
「もう先生なんて知りませんから!!恵那帰ろっ!!」
「あ、うん。…進藤先生、今日はありがとうございました。失礼します。」
「いえ、僕の方こそありがとうございました。また明日教室でね。」
「はい!!さようなら!!」
お、進藤先生と横井が更にいい感じになっているじゃないか。
ちゃんと話しできたんだな。
二人ともいい顔してるし、もう安心していいみたいだな。
「門まで行きましょうか。」
「いえ、ここで大丈夫です。では…」
来た時は、見てられないような悲しい笑顔だったけど、今の横井の笑顔は幸せに満ちてるようだった。
それに比べて…。
「さ・よ・う・な・らっっ!!」
あー…完璧に怒らせてしまった。
まぁ人にキスシーン見られた上に笑われたら怒るよな…。
「なぁ、おい。伊…」
バタンッ!!!!
乱暴に閉められた扉に少し同情。
俺のせいなのに…何かごめんな。
「甲田先生、コーヒー飲みます?」
進藤先生の声と水の音に気づいて振り向くと、コーヒーをいれる準備をしている姿が目に入った。
なんたる切り替えの早さ…流石だな進藤先生よ。
「甲田先生?聞いてますか?」
「ん?あ、その…俺はいいかな。さっき飲んだし。」
「そうですか。」
俺の気のせいだろうか。
進藤先生の表情が柔らかい。
昨日はあんな暗い顔でうなだれていたというのに。
横井もそうだが、大切に思っている相手と分かり合えたというのは、人をここまで変えるんだな。
「なぁ進藤先生、横井とはどうなったんだ?」
「えっ…いきなりですね。」
「まぁまぁ。いいだろ?教えてくれても。」
だって、気になるじゃないか。
進藤先生にとって、いつのまにかそんなにも大切になっていた横井とのこれからを。
逆に聞きたがらない奴なんていないと思うけどな。
「自分の事を話すって何かむずがゆいですね…。」
「はははっ、俺はいつもそうなんだぞ?」
苦しみを人に話す時は、ただ助けてほしいという気持ちで一杯で、感情もあまりないけれど、喜びや幸せを話す時は何か胸が高鳴ってむずがゆくなるんだよな。
「ふぅ……。」
コーヒーをいれ終えた進藤先生は、ゆっくりと向かいにあるソファーに腰掛けた。
ソファーの間に置かれた机の上にあるコーヒーから、ふわっと良い香りがする。
この匂いを嗅ぐと、ついコーヒーを飲みたくなる。
こんなんだったら進藤先生に一緒にいれてもらえばよかったかな。
「…やっぱりコーヒー飲みます?何か欲しそうな目してますけど。」
「あー…いや、それは事実なんだけど。我慢する。」
もし今、進藤先生か俺がコーヒーをいれにいったら、話しが遠のいてく気がするし。
「俺の事はいいから。で、二人はどうなったんだ?」
コーヒーを一口。
深呼吸を一つ。
そして、進藤先生がゆっくりと話し出した。
「僕は、甲田先生みたいに器用な恋愛はできません。まぁそれは経験が少ないだけなのかもしれませんが…。」
器用な恋愛なんてしてるつもりはないんだけど…回りから見たらそう見えるのだろうか。
「じゃあ、横井の事は諦めたのか?」
二人のあの笑顔はただの空元気とでも?
「ははっ、何言ってるんですか?」
「…え?」
「やっと見つけた、こんなに大切に思える女性を簡単に手離したりはしないですよ。」
自分の事じゃない。
これは進藤先生の恋愛話しなのに、何故だか自分の鼓動が速くなっていく。
「ゆっくりと大事にしていきたいんです。だから、今は見ているだけでお互い我慢しようって。」
スピードをおとす事のない鼓動は、俺の胸を締め付けてくるようだった。
男の俺にも伝わってくる進藤先生の魅力。
きっとそれが鼓動を速くしているんだろう。
感心するところでもあるが、少し憎かったりもする。
「ということは、二人の恋はまだ始まってないのか…。」
ため息まじりにそう呟いた俺の言葉を聞くと、進藤先生はゆっくりと首を横に振った。
「始まってますよ、片想いが。」
「…あぁ。ははっ、そうだな。」
両想いだけが恋なんかじゃないもんな。
むしろ、片想いの方が本当の恋愛というのかもしれない。
一緒にいられない分、相手への気持ちがどんどん膨らんで、でも伝える勇気はなくて。
苦しいけど、充実した気持ちになれる。
そりゃ両想いが一番幸せだけど、片想いの時にしか感じられない幸せもあるんだよな…。