先生と教官室2〜新しい道〜





どれだけ手を伸ばしても届かない。




抱き締めに行きたくても足が動かない。





『せんせ…っ』





伊緒の声が少しずつ小さくなっていく。





そして、それに比例するように伊緒の姿が暗闇へと消えていく。






「伊緒っ!!待てって!!」






お前は泣きながらどこへ行く?





俺の元には帰ってきてくれない?





なぁ、もうお終いなのか…?








「うわぁぁっっ!!」






まるで自分も暗闇へ落ちていくようだ…。


















「……っせい!!」





ん?





「先生ってば!!」






「…い、お?」






目を開けると、そこは明るい教官室。




さっきのは…夢?





「大丈夫ですか?すごいうなされてましたよ?」




じゃあ目の前の彼女は本物の伊緒なんだよな?





「先生?また体調悪い?」




俺の…大切な人…。





「きゃっっ!!」





伊緒の腕を引っ張り、俺の上に覆い被さるように抱き締めた。














「伊緒…だよな?本物だよな?」





「ふふっ、何言ってるんですか?私に決まってるじゃないですか!!」






震えていた身体が少しずつ落ち着いていく。





伊緒の温もりが安心をくれるようだ。





「何かあった?先生…。」




強く抱き締める俺の頭を伊緒は優しく撫でてくれた。





「伊緒を…失う夢をみたんだ。それが何かリアルで…」





情けない話し、本当に怖かった。





自分の何かが壊れていくようで…どうしよもなく身体が震えた。






「先生…大丈夫だよ…。」




優しい伊緒の声が俺の耳元で囁く。













そして、まるで確かめてと言わんばかりに、ゆっくりと俺にキスをしてくれた。





「私はどこにも行かないですよ。先生の隣にずっといますから。」





ニコッと笑う伊緒が愛おしい。





さっきまでの不安は無かったかのように消えていた。






「あぁ…そうだな。俺も離さないから。」






「勿論です!!あははっ」






鼻と鼻をくっつけて、お互い笑いあった。





俺の顔に触れる伊緒の手は魔法がかかっているかのごとく、俺に安心と安らぎをくれた。














「え?進藤先生そんな事思ってたんですか?!」





「あぁそうみたい。」





恵那と言ってる事が同じ部分は多々あるけど…少しすれ違ってるとこもある。






恵那は告白を断られた事で嫌われてるって思っちゃってるし…。





大丈夫かな?あの二人。




こじれなきゃいいけど…。





「まぁあの二人の事はもう少し様子を見てみよう。」





「…はい。」





「ところで、お前時間大丈夫か?今日部活無い日だし、それに7時回ってるから親御さん心配してるんじゃない?」






あ、もうそんな時間なんだ。





恵那とずっと話してたから時間の感覚が全くなかったな…。






「そうですね…じゃあ失礼します。」





鞄を持って立ち上がると、何かが制服をピンッと引っ張った。






「バカかお前は、送ってくに決まってんだろ?ちょっと待ってて。」






ぶっきらぼうにそう言う先生。






その姿が可愛い。






不器用な優しさって、たまらなくキュンってするんだぁ。













「ほら、おいで。」





先生から差し伸べられた大きな左手。





え?繋いでいいの?





ここ学校だよ?





「大丈夫、外真っ暗だから見えやしないだろ。」





「……はい。」





今日は少し大胆な先生。



さっきの怖い夢が原因かな?





何だか行動一つ一つが私を包み込むようでドキドキするよ…。






「見つかったらどうするん…ですか?」




「んー?足怪我したから支えてるとでも言っときゃいいだろ。顧問だし不自然じゃない。」





な、なるほどーっ!!!!




今日の先生は悪知恵がさえてる!!!!





「でも……」





「え?」





「顔見られたらちょっとまずいかな。」






そう言って私を見た先生は、顔を赤くして笑っていた。





その顔が私を好きと表してくれているようで、目が離せなかった。





「改めて手繋ぐって照れる…。」





「わ、私もです…」






車に到着するまでの五分間は、とても幸せな時間だった。












何でだろう胸の高鳴りがやまない。




もう何度も先生の車に乗ってるのに…。





繋いでいた手が熱いのは暖房のせい?





街灯の光が先生に当たるたび、横顔がはっきりと見える。






まただ…この気持ち。





先生が隣にいるはずなのに、もっと近づきたいと思ってしまう。






贅沢な悩みだよね。





先生が足りないだなんて……。











車からみえる景色が段々見慣れたものになってきた。





それは私の家が近い事を表していて少し寂しくなる。





「もうそろそろ着くから。」





「はい…。」





本当は…もっと一緒にいたいのに。





それを素直に表現できない。





もどかしさだけが胸を渦巻いて消えていく…。






「伊緒?どした?」






「え…あ、いえ…何も。」





気がつくと、そこは家の横にあるコンビニの駐車場だった。






もう着いちゃったんだ…。






早いよ、バカ…。












顔を覗きこんできた先生が、私の顔に手をあてた。





「泣いてるのか?」





泣いてる?私が…?





「泣いてないですよ?」





「じゃあ、何でそんな悲しそうな顔してんだ?」





悲しそうな顔…そんなの決まってるよ。




先生と離れたくない、それだけ。






「抱き締めて…先生…。」




私は勢いよく先生の胸にとびつき、そう呟いた。




私に温もりをちょうだい?