私が、座らせられているのは車内に設置された横型のベンチシートだ。

汚い毛布と苦い烏龍茶を、柏原に手渡すと……執事は微笑みそれを受け取る。


「こんなもの……貴女には相応しくない」


執事は、それを丁寧に丸めてベンチシートの隅に追いやると……自らが私を包む。



柏原のジャスミンの香りがする。

アロマをたいて、自然に染み込ませた爽やかな香りだ。

深呼吸するように、それを楽しむと……なんだかドッと疲れた。


「申し訳ございません。お嬢様を、あの様な危険な目に遭遇させてしまうなんて……」


捨て犬の遠吠えみたいな、弱々しい執事。


それだけで、度重なる無礼な態度を許してあげたくなってしまう。


「紫音家執事として、あのような輩を屋敷に招いてしまっては旦那様にも酷く叱られてしまうでしょう」