ガッチャーン。

 「ごめんなさい、私ったら...」
 友美子がグラスを床に落として割ってしまった。
 麻由美が傍に駆け寄ろうとすると、それよりも良樹の方が早く友美子に近づいていたのに驚かされた。
 
 「大丈夫かい?そんなに始めっから張り切らなくていいですよ。麻由美のやっていることを見て覚えてくれればいいんだから。」

 麻由美も
 「そうよ、友美子ちゃん、ゆっくりでいいのよ。焦らないでね。」
 少しだけ上から目線のような口ぶりで友美子をなだめた。

 「そうね、ありがとう。これからもお世話になるのだからゆっくり覚えさせてもらいます。」

 そんなやり取りを尻目に、麻由美が店を空ける時間が近づいて来た。
 
 「おい、そろそろじゃないのか?美紗の学校。」
 「あ、そうね、じゃ仕度して行ってくるわ。友美子ちゃん、よろしくね。無理しないでうちの人に何でも訊いてくれていいから。」
 「ありがとう、行ってらっしゃい、お・く・さ・ま!」
 
 友美子が最後の言葉を強調して麻由美を送り出した。
 
 麻由美は何となく後ろ髪を引かれるような感覚を持ちながら、店を後にした。