(なにをやっているんだ俺は。)

ボイラー式の風呂は、見事に良い湯加減に仕上がっており、普段はシャワーしか浴びない男は、久しぶりにつかる湯舟でぼんやりしていた。
そもそもこんなに頭で何か考えていることも珍しい。普段ならば、昼間は全てが面倒で何も考えずにぼーっとして、夜になり、暗くなってくると、何か黒いものが自分を支配して、暴れだし、気絶するように倒れて少ししたら目覚める。
そうやって死を待つだけの生活だったのに。

今日は何かがおかしかった。あの少女のせいだ。

ため息をついて、湯舟から出る。

鏡に映る自分を見て、自分はこんな顔だったかと思い出した。
痩せた体。
不精髭が生えた顔。
しばらく見つめていると、やがてその顔は変化し、女の顔へと変化をとげて、にこりと、美しく笑った。

「あ…」

掠れた声が出た。





「紀一さん、服置いておきますね。」

脱衣所からの声。
はっとして鏡を見ると、そこには普通に自分がいるだけだった。


「…ああ。」

呟いたあとも、しばらく鏡を見つめていた。