やがて、彼女の体が見えなくなって、わたしは結界の中にひとり残された。
 もう、ここからは体力勝負だ。
 葵の生体反応を探せてたのだから、船からはわたしが生きてることはわかるだろう。
 「でも、自分なりにかっこよく出てきたから、助かるのもなんだしなぁ」

 どうせ助かっても、またあの現実が待ってるだけならば。
 (助かるときには、都合良く記憶喪失とかになってたりしないかな?)
 そしたら、彼の姿を見ても、何も感じないでいられるのに。

 千花の姿が半透明になって、ついにその場からいなくなるまで、俺は見ていることしか出来なかった。
 掴みあいをしていた亮太もそれは同じようで、ありきたりな言葉だけど、時間が止まってしまったかのようだった。

 「! 生体反応、2つに増えたぞ?!」

 後ろからモニターをチェックしていた奴がそう叫ぶ。
 その声に、千花の消えたところを見つめていた視線がモニターに移った。
 俺も、亮太から手を離してのろのろとモニターの方に近づく。

 「……これって、きっと千花だよね?」
 ポツリとそんな言葉をこぼしたのは、千花の親友の絵里だった。
 さっきまでの言い合いをみていた奴なら、千花が戻って来られないのはわかっている。
 涙声になった絵里の肩を、筒井が抱いているのが見えた。
 (一体、どうなってるんだよ)
 さっきまで、自分が行くはずだった場所には、今何故か千花がいる。
 「あ! 1つになったぞ!」
 モニターに映っていたオレンジ色の光がひとつになる。
 と同時に、後ろで亮太が叫んだ。
 「葵は?! 無事なんだろうな?!」
 その声に答えるように、船の中に葵の姿が現れた。
 衰弱が激しいようで、そのまま亮太の腕に倒れ込む。
 「葵!」
 何人かが彼女の傍に駆けていき、そのままメディカルルームに運んでいく。
 ……本当だったら、その中に俺も居ておかしくない。
 先程まで、彼女が助かるなら自分の命すら惜しくないと思っていた。
 嫌な考えをするなら、亮太の代わりに一度でも彼女を助けることが出来るなら、どうにでもなれとも思っていた。
 それで、彼女が一生自分のことを忘れないでいてくれるならいいとまで考えた。
 (ただの幼馴染よりも、命の恩人の幼馴染の方がいい)
 確かに、亮太が居なくなれば、葵の気がおかしくなることも考えなかったわけではない。
 けれど、最後の最後まで彼をヒーローに仕立て上げたくなかった。

 (その結果がこれかよ)