◆   ◆   ◆   ◆   ◆

「あ、おかえりー……って、なんで王子がまだカエルのままなんだよ? そんなに難しい呪いなのかい」

 魔法で少年の姿になって留守番をしていたネズミに、セレネーたちは「……ただいま」と答えることが精一杯だった。
 八方塞がりになってしまった旅を終え、取り敢えず森の中の家へ戻った二人は、各々にうつむいて意気消沈する。

 セレネーは壁際のソファーへ座り、盛大なため息をついた。カエルも後に続いて隣へ座る。

「どうしてフレデリカさんで呪いが解けないのよ……明らかに王子のこと、心から愛していたのに」

 南の国を去る際、フレデリカは王子の呪いを解けなかったことを謝り続け、呪いが解けなくても一緒にいたいと言ってくれたのだ。
 しかしカエルは「貴女の人生を縛りたくありませんから」と申し出を断って、今に至る。

 カエルの呪いを解くために、心から王子を愛する乙女のキスを求めていたが……それでも呪いが解けないとなれば、いよいよ解呪の魔法が間違っていたのではと思ってしまう。
 解呪の魔法は、他の魔法と間違えてかけられるものではなかったとしても。

 無言に耐えられなくなったのか、ネズミが「もしかして」と明るい声を上げた。

「片方が想っていても、もう片方がそれを受けようとしなかったら、いくら愛情を注いでも呪いが解けないんじゃないの?」

 言われてセレネーはハッとなる。
 確かに愛情が一方通行であれば、呪いを解く力が注がれず、ない事と同じになってしまう。

 こんな基本的な事をネズミから教えられるなんて……。
 自分にがっかりしながら、セレネーはカエルを見る。
 思い当たる節があったのか、カエルは感慨深げに目を閉じていた。

「実を言うと、カエルのままでいいから、セレネーさんと一緒にいられれば……と思っていました。貴女は自分の事よりも相手の事を考えられる、優しくて強い人だから、近くにいて心地良よかったんです」