「今日バレンタイン割引ってやっててさぁ」

 俺は今日あったことを話そうとした。


「うん。書いてあったね。200円引きだっけ」

 ナツは店の前の看板を見たらしく、そんな相槌が返ってきた。


「そう。だからいつも以上に人居てすっげー忙しかったんだ。しかも皆カップルだし。……あーぁ。せっかくのバレンタインなのにとんだ災難だよ」

 そんな風に、いつものようにナツに愚痴っていた。


「……しょうがないでしょ。そういう仕事なんだから」


 また違和感を感じた。この間の電話の時と同じだ。


「……ナツ、何かあった?」

 俺はナツの様子を見ながら聞いた。


「え……」


「この間電話した時も思ったけど…やっぱり元気ないっぽいし」


「そんなことないわよ。確かにちょっと仕事の疲れが溜ってるかもしれないけど、別に大したことないから」


「仕事きついの?」


 ナツが仕事のことを口にするなんて、珍しい。よっぽど疲れてるのかな?


「大丈夫。やらないといけないこともちゃんと片付いたし、あとはいつも通りだから」

 ナツはそう言って、軽く微笑んでいた。


 そっか。ナツが大丈夫って言うなら、大丈夫だよな。



「そういえば……旬。携帯、電源切ってたの?」

 ナツがいきなりそのことを口にした。


「あっうん。そうだ、俺充電切れかけだったから切ってたんだ。あ、もしかしてナツ、電話くれてた?」

 ナツに言われて俺はやっと携帯のことを思い出した。


「……うん。メールもしたんだけど」


「マジで!? ごめん、まだ見てなかった」


 それならやっぱり電源入れてバイト中も持っておけばよかった。

 そう思いながら俺はダウンのポケットから携帯を取り出した。