その後も、忙しくて、ナツに連絡をする時間なんてなかった。


 ただでさえ忙しいのに、今日に限って、携帯は更衣室のロッカーに置いてきてしまった。取りにいく暇なんてない。

 いつもはポケットに入れてるのに、なんで今日に限って……


 しかも大川先輩はなかなか来ない。もうとっくに七時を過ぎてしまった。


 やばいやばいやばいやばい……


「沖田君、鳴海さん! 大川君来てくれたから、もう上がっていいよ!」

 店長の声で、俺は物凄くほっとした。


「本当にごめんね! 助かったよ。ありがとう!」


「いえ、とんでもないです! それじゃ、お先に失礼します!」


「お疲れ様!」


 最後の方はバタバタで、俺は更衣室に戻った。



 急がねえと……! ナツに連絡……ああ! 着替えが先だ!


 俺はロッカーの中から携帯を取ったけど、そうすると着替えの手が止まってしまう。着替えてからナツの家まで走りながら電話した方が早い。携帯を置いて急いで制服から着替えをした。


 今の俺は、とにかく、一秒でも早くナツに会いたかったんだ。




 着替えを済ませて、俺は急いで店の裏の従業員用入り口から外に出て、表の通りに出た。


「沖田君!」


 丁度その時に名前を呼ばれて、俺は振り返った。


 なるちゃんが俺の後から表に出てきた。


「なるちゃん。お疲れ」

 さっき言い損ねたから、なるちゃんにそう言った。


「うん。お疲れ。本当に災難よねー。まさかこんなに遅くなるなんて」


「ホントだよなぁ」


「沖田君、これから彼女さんのとこ?」


「うん。なるちゃんも? デート?」


「うん。一応ね。待ち合わせの時間遅くしたんだけど……もう待ってるかな」

 なるちゃんは腕時計を見ながら言った。


「あ、それでね……はい。これ」

 なるちゃんは鞄の中から小さい袋を取り出して俺に差し出した。