「うーん。そのうち、気にならなくなるよ。このままでいいんじゃないかな?」


それが、遠藤さんのアドバイスだった。


「そうですね。なるようにしかならないし」


やがて、私はスパゲティを食べ終えた。


そうして、氷の溶け切ったグラスの水で渇いた喉を潤していると遠藤さんが思わぬことを口にした。


「僕の場合は、すぐ忘れられたよ」


それは、過去の女の話だ。


聞きたいけれど、深入りしたら嫌われるかもしれない。


遠藤さんが自ら語るのを待つことにしよう。


押し黙っていると、自発的に遠藤さんは自身の恋愛体験を語り出した。


「僕は、元カノと仕事で会うけど気にならないなあ。個性の強い破天荒な人なのに不思議と心からすぐいなくなった。もう平気で話ができるよ。まあ、仕事柄どうしても話す必要があるんだけどね。彼女の担当編集者なんだよ」


「担当ってことは……」


「うん。元カノは作家なんだ」


「すごい」


「いや、それほどでもないよ」


遠藤さんはそう言うと、ちょっと苦い顔をした。


なんとなく、私は直感でその作家が真っ赤なルージュの女性なのではないかと思った。


その元カノが落とした落し物を私が拾ったということか。


そんな疑心が胸に渦巻く。


喉仏を動かしながら遠藤さんは、ゴクゴクとグラスの水を飲んでいる。