遠藤さんには、前の口紅の話をしていない。


女性の話は厳禁のような気がするからだ。


「さあ、到着だよ」


遠藤さんは、そう告げると車を駐車場に止めた。


この駐車場は、一体どこの駐車場だろう?


海水浴場の駐車場だろうか?


まだ、海開きは始まっていない。


「さあ、降りよう」


遠藤さんに下車を促される。


私は、警戒して辺りを見回しながら降りた。


知らない土地だ。


駐車場の周りは林で、それを囲むように海が広がっている。


「ここ、どこです?」


訝しく思って尋ねた。


「海だけど」


「でも、海岸じゃない」


「このアスファルトの坂を下ったら海だよ」


遠藤さんは目の前の坂を指差して説明してくれた。


「そうでしたか。行きましょう」


私が坂を下りようとしたけれど、遠藤さんは身じろぎもしない。