でも、ボタンが押せない。


好きだからこそ、嫌われたくない。


嫌われたくないからアクションを起こしたくない。


それで、電話ができない。


『それよりも薫、頑張れよ』


今日の優の言葉が、頭の中をよぎる。


何を挫けているんだろう?


私が頑張らないと、優と別れた意味がない。


どんな思いで優が私と別れてくれたことか、想像すると胸が切なくなる。


優のためにも、この恋を実らせないといけない。


そう思って、ボタンを強く押した。


3コールで遠藤さんと繋がった。


「もしもし」


穏やかで優しい、遠藤さんの声が耳の奥に響く。


遠藤さんが電話の向こう側にいる。


そう思うと、胸が震えた。


「あの、私です!」


私の声がうわずる。


緊張はもちろんのこと、恥ずかしさと嬉しさが入り混じった不思議な気持ちがする。


「……薫ちゃん?」