エレベーターの扉が開くと、少し先の正面にレストラン「ルージュ」のガラス張りの自動ドアが見えた。


ガラス張りだから店内が覗ける。


その前に、左手の壁に寄る。


その壁には観葉植物が両脇に並ぶ大きな鏡があって、身だしなみをチェックすることができた。


この姿見は、レストランに入る前に服装をよく確認してから来るようにとレストラン側が示唆して用意したものだろう。


私は全身を映してみる。


白いワンピースの上に淡いピンクの鉤針編みカーディガンを羽織っている。


靴はシンプルなデザインの白いミュールで、バッグはコーディネートのアクセントになるように派手めの濃いピンクの物にした。


今日は朝から予約していた美容院に出かけカラーリングとカットを頼んで、カラーリングはいつもより明るめにカットは毛先を揃えるだけにして髪をセットしてきた。


セットしても、印象はたいして変わっていない。


腕時計を見ると、短針が文字盤の7、長針が12を少し過ぎたところを指していた。


少し遅刻だ。


でも、辺りを見回しても遠藤さんらしき人の姿はなかった。


まだ、来ていないようだ。


手を胸元にそっと置く。


心臓が震えていた。


このままだと心臓が壊れてしまいそう。


手の指先まで自然と震えている。


家を出る前から、緊張していた。


メイクの時、指先が震えてうまくアイラインが引けなかった。