優は腕で顔を隠すと、くるりと踵を返した。


背中を向けて扉の方へと走り出す。


来た時と同じように、勢いよくガラッと扉を開けると扉を閉めずにそのまま走り去っていった。


行ってしまった。


走り去る優の背中が、いつもより小さく見えた。


店内が喧騒を取り戻す。


さっきのことが、何事もなかったかのように店は活気で溢れた。


「泣いてたね。何があったの?」


眉根を寄せて心配そうに遠藤さんが問いを投げかける。


「僕でよかったら相談に乗るよ」


そうして、顔を近づけてきた遠藤さんは、そっと私の肩に触れた。


遠藤さんの右の手が、私の左肩に置かれている。


そのボディタッチに心が躍る。


「はい。ありがとうございます」


あまりの嬉しさにパニックになった私は機械的な受け答えしかできない。


全神経が左肩に集中する。


「答えたくなかったらいいけど、さっきの男の子は君の彼氏?」


その質問と同時に遠藤さんは、右手を私の肩から離した。


もっと、触っていてほしかった。


物足りなさを感じながら「はい」と小さい声で返事をした。